Case 01

世界最高峰の研究者たちが注目したソーシャルマーケティングの活用実績

1万5000人。2019年に乳がんが原因で死亡した日本人女性の数です。

日本人女性の死因として最も多いのが「悪性腫瘍(がん)」です。さらにがんの部位別でみると、乳がんは5番目に死亡者数が多く、罹患率、死亡率ともに年々増加傾向にあります。
アメリカでは早くからマンモグラフィによる乳がん検診が行われており、積極的な普及活動により高い受診率を維持しています。一方日本では、2000年に50歳以上、2004年からは40歳以上の女性を対象にマンモグラフィが導入されました。以来政府は、2年に1回の乳がん検診(マンモグラフィ)の受診を推奨していますが、2005年のマンモグラフィの受診率を比較してみると、アメリカ人女性の受診率が70%だったのに対し、自治体が実施したマンモグラフィの日本人女性の受診率はたったの17.6%でした。
日本人女性の乳がんへの認識は決して低いわけではありません。2007年の認識率調査では、「マンモグラフィで、しこりとして触れないごく早期の乳がんを発見できる」と答えた方が全体の約70%と、2005年の55%から上昇していることがわかります。それでも乳がん検診の受診率は依然として低く、3 割にも満たない状態でした。

日本の乳がん患者の多くは、症状の早期発見ができておらず、発見されたときにはすでにステージIIまでがんが進行していた、といったことも少なくありませんでした。そのため、乳がん検診の受診率向上は大きな課題となっています。

当時、受診率を上げる効果的な方法として考えられていたのは、ピンクリボンキャンペーンのような啓発活動でした。そんな時代の流れのなかで、2008年に創業したキャンサースキャンが取り組んだのが、マーケットセグメンテーション戦略を活用した行動変容モデルの確立でした。セグメンテーションとは、異なる特徴を持つ人々を、年齢や性別(人口動態)、行動パターン、心理的な特徴などをもとに、より小さく同質なグループへと分ける手法です。

まず私たちは、女性を対象にアンケートを実施し、乳がんになることへの不安と、乳がん検診受診意欲の強さによって対象者のグループ分けを行いました。乳がんになることへの不安がありながらすぐに乳がん検診を受けようとは思っていない人たちをグループA、乳がんへの不安を持っているが乳がん検診を受けようと思わない人をグループB、乳がんへの不安も乳がん検診の受診意欲もない人たちをグループCとしました。

次に取り組んだのは、各グループの検診に対するハードルを取り除くようなメッセージを作ることでした。グループAにはがん検診の予約方法と、検査費用が約90 %も割引になることを明記した資材を作成しました。グループBには恐怖をかきたてないようにイラストを適宜使用しながら、乳がんの早期発見がもたらす利点について丁寧に説明しました。グループCには乳がんという病気の恐ろしさと検診の重要性を強調する内容を記載しました。なお、比較対象となるグループの女性には、調査の前に自治体で使用されていた通知を送付しました。

最適化したメッセージを受け取ったグループA、B、Cは、自治体の標準的な通知を受け取ったグループと比較して、乳がん検診受診率は約3 倍となり、大幅に向上する結果となりました。この乳がん検診の受診率向上事例は、ハーバード大学経営大学院のケーススタディや、「マーケティングの神様」と呼ばれるフィリップ・コトラー教授の書籍に掲載され、がん検診におけるソーシャルマーケティング活用が日本で注目されるきっかけとなりました。

参考サイト
国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」
国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」
厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
gooリサーチ結果 (No.164)「第3回 乳がんに関する2万人女性の意識調査

Case 02「ベストナッジ賞」を受賞した東京都八王子市の大腸がん検診受診率向上事業